もうちょっと間が空いてしまいましたが、音元出版から「ケーブル大全2015」が発売されました。2年に一度ずつ、「電源&アクセサリー大全」と隔年で発売されるムック本で、ケーブルとアクセサリーの「年鑑」「図鑑」として大いに役立つ本といってよいでしょう。私ら業界関係者にとっては「座右の書」でもあります。
禺画像] ケーブル大全2015
音元出版 ¥1,852+税
アンプやスピーカーといったオーディオ機器がほとんど掲載されず、それでいて広告も少なく記事の密度が極めて高いという、オーディオ関連誌としては極めて尖ったジャンルに属するこのムックですが、幸い売れ行きは悪くないようで、刊行が重ねられています。
思えば趣味の世界では「神は細部に宿る」とよくいわれるもので、こういう"尖った"情報をこそしっかりと網羅した刊行物が効果を発揮するシチュエーションが多いのでしょう。実際、ケーブルは「コンポーネンツの一員」と断言してもよいくらいシステムの表現を決定的に左右しますからね。
特に今回の「2015」は例年よりもずっと注目される要素が満載です。もう先刻ご存じの人も多いでしょう。オーディオケーブル業界で導体として大きなシェアを誇っていたPC-OCC(大野連続鋳造法による銅線)の生産が2013年をもって終了してしまったのですね。おかげで昨年からのケーブル業界は阿鼻叫喚の巷といいたくなる大騒ぎでした。オーディオマニアのよく知るあの社もこの社も、軒並み自社製品の生産が続けられなくなってしまったのですから。
しかし、各社ともただ茫然としているわけにはいきません。オーディオ業界はとにかく音楽表現をより良きものへ進めていかなければならないのです。長い年月とあふれんばかりの情熱をもって自室の音質を薄紙1枚ずつ、髪の毛1筋ずつ向上させてきたわが業界のお客様、すなわち私自身も含めたオーディオマニアという存在は、業界の停滞すら堕落と捉えずにはいられません。
まして、「PC-OCC素材がなくなってしまったので昔のタフピッチ銅に戻します。なに、音質なんてそんなに変わりませんよ」なんてことをいうメーカーが現れたら、それは自らの半生を費やして「音楽の真の姿」を探求してきたお客様を否定することになってしまいます。
幸い、わが業界の開発能力は想像を遥かに超えるものでした。PC-OCCの終焉がアナウンスされたと思ったら、年をまたがずしていくつかの有望な高品位導体が名乗りを挙げたのです。
多くの社が最も有望な素材として採用に乗り出したのはPC-TripleCと呼ばれる素材でした。電子機器の内部配線など、極めて繊細な配線材を作るには銅の純度を高くしておかないと線がすぐに切れてしまいます。そういう用途のために生産されている特別に純度の高い無酸素銅をまず太い線材にして、そこから日本刀のように叩いて延ばす、すなわち鍛造することにより結晶の粒界が縦に伸び、導体内接点の害が少なくなるというのがPC-TripleCの最も注目すべきところです。
また、一般の銅線はミクロの目で見ると結構すき間があるのだそうですが、こうやって叩くことですき間を激減させ、導電特性の向上も得られるのだとか。また、これは個人的な推測でしかありませんが、日本刀は叩いて鍛造していくことによって不純物が端へ追いやられ、鋼の純度が高まっていくということを聞いたことがあります。ひょっとしてPC-TripleCにもそんな効果があるんじゃないかな、などと想像が広がります。
禺画像] 音元出版Phile Webの
PC-TripleC紹介記事よりスクリーンショットを取らせてもらった。高純度の導体を「叩いて延ばす」ことにより結晶の粒界が縦に伸びていくことが目で見える、素晴らしい図解ではないかと思う。
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